プロフィール
Profile
芹澤 菜月(せりざわ・なつき)|株式会社ヤマムラ 住宅事業部。静岡県御殿場市出身。東北芸術工科大学大学院で古民家の再生・残し方を研究。静岡・関東圏の建築会社を経て、2026年1月ヤマムラ入社。万場町の古民家再生プロジェクト「雪宿り」を担当。
「ただ直すだけじゃない」──目指すのは古民家再生士
ヤマムラでは今、どのような業務を担当されているのですか?
所属は住宅事業部なのですが、実は新築の仕事にはお手伝い程度で関わるくらいなんです。私のメインのミッションは、リフォーム物件や、これからヤマムラが扱っていく中古物件をどう活用していくかを企画・検討すること。そして、現在万場町で進んでいる古民家リノベーションプロジェクト「雪宿り」の設計やディレクションを丸ごと担当しています。
普段のプロジェクトだと、現地調査、基本設計、実施設計、現場管理といったフェーズごとに担当者が分かれることが多いそうですが、「雪宿り」では、この一連の流れをすべて一人で任されているといいます。設計から見積もりの取りまとめ、オープン後の運営まで、一貫して担当する。かなり異例の任され方だと本人も笑います。
自己紹介を兼ねて、この道を志したきっかけを教えてください。
私の人生の目標は、「古民家再生士」になることなんです。
「古い建物を今も住み続けられるように改修するだけじゃなくて、その建物にどんな人が入り、どう活用され、周りの人たちがどう愛着を持ってくれるか──までを考えるのが、私の思う古民家再生士です」
決まった資格や職業があるわけではありません。設計や建築だけでなく、コミュニティやまちづくりまで、あらゆる要素が混ざり合った存在になりたい。その目標が、彼女のキャリアのすべてを貫いている。

大学院での研究、そして「快哉湯」との出会い
学生時代から、古民家一筋だったそうですね。
出身は静岡県の御殿場市なのですが、大学・大学院は山形の東北芸術工科大学(芸工大)に進学しました。学部の頃から、山形市内の旧道沿いに残る建物を対象に、古民家にどんな価値があるのか、なぜ壊されてしまうのか、維持する大変さはどこにあるのかを、所有者の方々にヒアリングする研究をしていたんです。「じゃあ、いざ残すとなったらどうするか」を大学院で突き詰めようと決めて、そこからどっぷりこの世界に浸かっています。
実は大学院時代、古民家の残し方をリサーチしている過程で、ヤマムラが手がけた「快哉湯」に行き着いたんです。どこの会社の、誰がやっているんだろうと調べたら、ヤマムラと中村出さんの名前が出てきて。そのときの発見を、ずっと覚えていました。

- 古民家の残し方・保存活用の研究
- リサーチ中にヤマムラの「快哉湯」を発見
- 注文住宅・リフォーム・公共案件をオールマイティに経験
- 「もっと古民家に携わりたい」という葛藤
- 知人の縁で古民家を借りるチャンスが訪れ山形へ
- 入社面接のタイミングで「雪宿り」プロジェクトに出会う
静岡での葛藤と、山形へのUターン
前職も建築関係だったのでしょうか?
はい。静岡・関東圏を拠点にする建築会社で、注文住宅の新築やリフォーム、クリニックの増築などをオールマイティに担当していました。大工の技術が有名な会社で、自分で東海道沿いの町屋を再生してまちづくりをしているような、ポテンシャルの高いプレイヤーがたくさんいる会社だったんです。ただ、日々の業務の中では、自分が本当にやりたい「古民家再生」に直接携わる機会がなかなか作れなくて。「これでは本末転倒だな……」と葛藤していました。
そんなとき、大学時代の友人経由で、たまたま山形県内の古民家を「借りてくれないか」というお話を個人的にいただいたんです。「自分で再生に挑戦できるチャンスかもしれない!」と思い、会社を辞めて山形へ移住してきました。でも、いざ一人で着手しようとすると、資金的にも技術的にも課題が山積みで……。「まずは働きながら、知識も技術も身につけられる場所を探そう」と考えたとき、頭に浮かんだのが、大学院時代にノートにメモしていたヤマムラでした。
面接の場で引き寄せた、運命のプロジェクト
ヤマムラへの入社は、まさに運命的なタイミングだったそうですね。
本当にタイミングが良かったと思います。入社面接を受けたのが12月だったのですが、その場で中村出さんから「ちょうど万場町に古民家を買い受けるかもしれないプロジェクトがあるんだけど、やってみない?」と言われたんです。それが、いま私がメインで担当している「雪宿り」でした。まだ買うかどうかも検討している段階だったのですが、私はもう二つ返事で「やらせてください!」とお伝えしました。1月に正式入社して、そこからは怒涛の勢いでプロジェクトが動いています。
今後は、中古物件に自ら住みながら発信する企画もあるとか?
そうなんです! ヤマムラで扱う中古物件に私が仮で住んでみて、DIYや改修をしていく様子を撮影して発信していこう、というアイデアを社内で話しています。「古い物件でも、こんなふうに楽しく快適に暮らせるんだ」ということを、自分の生活を通して若い世代にも伝えていけたらいいなと思っています。
【囲み:🎙 ポッドキャストも準備中 ── 建築の知識がない人にも古い建物との付き合い方を届けたいと、音声配信の構想も進行中。若い世代の「古い物件への抵抗感」を和らげる、楽しいコンテンツを目指します。】

実は「もう一軒」。個人でも動く古民家プロジェクト
芹澤さんは、会社の仕事以外にも古民家と関わっているそうですね。
はい。実は入社前、山形に一度移住してきたときに個人で借りた東根の古民家が、今もそのまま残っているんです。当時は「自分の手で再生に挑戦したい」と会社を辞めて山形に来たものの、資金的にも技術的にも一人ではどうにもならず、ヤマムラに入社することになった、その原点にある物件です。今後どう動かすかはまだ検討中ですが、中村出さんにも相談しながら、いずれ自分なりのかたちで進めていけたらと思っています。会社の「雪宿り」と、個人の東根の家。ふたつの古民家に同時に向き合っているのは、なかなか珍しい状況かもしれません(笑)。
所属も企画開発部から住宅事業部(旧建物再生室チーム)に移られたそうですね。
「雪宿り」が動き出したタイミングで、企画開発部から住宅事業部へ異動になりました。今後は、ヤマムラが所有する中古物件の活用を、この部署のメンバーと一緒に考えていく役割も担っていきます。自分で所有して運営していくのか、再販するのか。そのあたりもこれから決めていくところですが、「雪宿り」で培った知見を、次の物件にもつなげていけたらと思っています。
プライベートも「古民家縛り」
お仕事以外の時間は、どのように過ごされていますか?
完全に「どっぷり」浸かっています(笑)。静岡にいた頃は、休日になると滋賀の「ラ コリーナ近江八幡」など、藤森照信さんの建築を巡ったり、全国各地の古い街並みをぐるぐる回ったりしていました。最近は単に建物を見るだけでは物足りなくなって、その建物が地域にどんな影響を与えているか、どんな活用をされているかを、じっくり滞在して観察するのがマイブームです。中国・四国・九州と北海道はまだ行けていないので、これからですね。
「まちと育てる古民家再生」を、ライフワークに
すでに片付けのワークショップも始まっているそうですね。今後の展開も教えてください。
「まちと育てる古民家再生」というテーマを、私が勝手に決めてしまいました(笑)。建物が完成して終わりではなく、作るプロセスから地域の方と関わって、みんなの愛着を育てていきたいんです。その一環として、片付けのワークショップを何回か継続してやろうと思っています。
7月の「よろず市」(奇数月・第2土曜日開催)には、片付けの過程で出てきた古い道具たちに、ひとつひとつ物語のタグを付けて、フリーマーケットとして出店する予定です。値段を決めたり、ものをレイアウトしたりするところまでをセットにできたら、お披露目の練習台にもなりますし、この場所を知ってもらうきっかけにもなる。得られるものが多そうだなと思っています。
工事の過程でも、一般の方が関われる部分を少しずつ作っていけたらと考えています。壁を一緒に塗ったり、庭のブロック塀を直すときに、石積みができそうな石を町の方々から集めさせてもらったり。すでに石積みが得意な友人にも協力してもらう予定です。少しずつ、まちの人たちと一緒にこの建物を育てていきたいですね。
ヤマムラでは今、古い建物をリノベーションしたり、地域に愛される場所として再生させたりするプロジェクトが次々と動いています。ただ正直なところ、現場はほぼ私一人で手を動かしている状態です(笑)。
「『古い建物を残したい』『建築の知識を活かしてまちづくりに関わりたい』という情熱を持った仲間が来てくれたら、本当に心強いです。これから一緒に学び、挑戦していける仲間を大募集中です!」
少しでも興味を持った方は、ぜひ気軽にヤマムラの扉を叩いてみてください。

芹澤さんが「二つ返事」で飛び込んだプロジェクト「雪宿り」。大正13年築の古民家は、これからどんな場所に生まれ変わるのか。その全体構想と設計の中身は、こちらの記事で詳しくお届けします。
→ 新庄・万場町の古民家を「まちの案内所」と宿へ──建物再生プロジェクト始動 へ
DATA
芹澤 菜月|株式会社ヤマムラ 住宅事業部(静岡県御殿場市出身・2026年1月入社)
経歴:東北芸術工科大学大学院(古民家の再生・残し方を研究)→ 静岡・関東圏の建築会社 → ヤマムラ
担当:古民家再生プロジェクト「雪宿り」(新庄市万場町)設計・ディレクション
写真・文:山村プレス編集部
Sanson Press — Shinjo, Yamagata