想いを継ぐ Renovation & Heritage 連載・雪宿り

新庄・万場町の古民家を「まちの案内所」と宿へ──建物再生プロジェクト始動 #1

山形県新庄市万場町。この歴史ある通りに佇む、大正13年(1924年)に建てられた1軒の古民家が、いま新しい姿へと生まれ変わろうとしています。プロジェクトの名前は「雪宿り(ゆきやどり)」。ヤマムラが建物の歴史を未来へと繋ぎ、まちに開かれた拠点をつくるリノベーションプロジェクトです。連載第1回目は、プロジェクトの概要や名前に込めた想い、現在進行中の現場の裏側を、メイン担当の芹澤さんに語っていただきました。

2026.06.30 文=山村プレス編集部 約8分で読めます
新庄・万場町の古民家を「まちの案内所」と宿へ──建物再生プロジェクト始動 #1

西日が差し込む雪宿りのエントランス。懐かしいマジックアワーを体感できる。

(芹澤さんの人物インタビューはこちら) 「人生をかけた古民家再生士に」──新入社員・芹澤菜月さんが新庄で描く未来

プロフィール

Profile

芹澤 菜月(せりざわ・なつき)|株式会社ヤマムラ 住宅事業部。東北芸術工科大学大学院で古民家の再生・残し方を研究。2026年1月入社、「雪宿り」プロジェクトの設計・現場管理・運営を一貫して担当。

「宿泊」と「まちの相談所」

プロジェクトのきっかけは、企画開発部の中村出さんのもとに、地域の方から「この古民家を買い受けてくれないか」という相談が寄せられたことでした。元の家主からは「できれば宿泊施設として活用してほしい」という強い要望があったといいます。買うかどうかもまだ検討段階だったこの時期、芹澤さんは入社面接の場で偶然この話に出会い、「やらせてください」と二つ返事で担当を引き受けることになりました。

「宿泊の運営自体は、ヤマムラが手がけた『快哉湯』のカフェも運営してくださっている『ベステイト』様にお任せすることになりました。そして建物内の店舗スペースには、私たち住宅事業部(旧建物再生室チーム)が常駐するサテライトオフィスを作ることにしたんです」

古民家「雪宿り」の全体構想
A satellite office, an inn, and a place open to the town

店舗スペース

  • ヤマムラのサテライトオフィス
  • まちの案内所/移住相談窓口
  • 古い建物に関する相談所

宿泊スペース

  • 1日1組限定の貸切宿
  • 最大6名まで宿泊可能
  • お風呂&サウナも完備
\ ゆるやかにまちと繋がる空間 /

ただし、ガツガツ仕事をするだけのオフィスにはしたくなかった、と芹澤さんは話します。目指しているのは、「まちの方々と緩やかにつながれる、圧倒的に敷居の低い場所」。具体的には、次の3つの役割を持たせたいと考えているそうです。

  1. まちの案内所:宿泊に来られた方に、新庄の魅力やおすすめのスポットを伝える。
  2. 建物の相談所:古い建物や空き家、暮らしの困りごとを気軽に相談できる窓口。
  3. 人の繋がりを生む場所:地域の方も、旅の人も、ふらっと立ち寄れる空間。

「宿泊に来られた方に新庄の魅力を伝える『まちの案内所』。古い建物や空き家、暮らしの困りごとを気軽に相談できる『建物の相談所』。そして、地域の方も旅の人も、ふらっと立ち寄れる『人の繋がりを生む場所』。この3つを、この建物で果たしていきたいんです」

住宅事業部が常駐するサテライトオフィスになる予定の店舗スペース。建物に残る古い棚や金庫も活かす。

嫌われものの「雪」を、あえてテーマに掲げた理由

「雪宿り(ゆきやどり)」というプロジェクト名には、二つの意味が込められています。

新庄といえば、冬の激しい雪が大きな特徴です。地元の方にとっては災害級の苦労を伴うもので、どちらかといえばネガティブに捉えられがちだといいます。しかし新庄には、昔から雪と共に暮らすための知恵を研究してきた「雪調(せっちょう=旧新庄雪災害研究所)」という活動の歴史があります。この建物自体も文化財級の価値を持つものだからこそ、宿泊を通して新庄のまちと雪の深い関係性や歴史を知ってもらうきっかけにしたい──そんな想いが、名前の一つ目の由来です。

もう一つは、言葉通りの意味です。冬に雪がしんしんと降ってきたとき、「ちょっと雪宿りしていこうか」というふうに、雨宿り感覚でふらっと誰もが立ち寄れる、温かい場所にしたい。そんな願いが込められています。

「雪は空気や水と同じ、昔から自然にあるもの。無理に排除したり活用しようと力んだりするのではなく、当たり前に受け入れて、共に暮らす」

その精神を、この場所で体現したいと考えています。

「中ってどうなってるの?」地域から寄せられる高い期待感

すでに専用のInstagramアカウントでの発信や、片付けのワークショップが始まっています。地域の反応はどうなのでしょうか。

「ご近所の方々は、『新しく人が入ってきたぞ、何が始まるんだろう』とすごく気にかけてくださっています(笑)。作業をしていると直接聞きに来てくださる方も多いので、その場で建物の中を案内するんです。皆さん『外からはずっと見ていたけれど、中はこんなに素敵だったんだね』と喜んでくださいますね。作業をしていると、お菓子や畑で採れたお野菜をお裾分けしてくださる方もいて、万場町周辺の方々は本当に温かいなと感じています」

📷 Instagramで進捗を発信中 ── 「雪宿り」専用アカウント @yukiyadori_1924 では、片付けや改修のリアルな様子を随時お届けしています。

地域外からも、SNSを通じて活動を知った方や、感度の高いプレイヤーが遠方から足を運んでくれているといいます。先日は、ふらっと車を止めて写真を撮りに来た方が実は前の新庄市長で、地域のまちづくりの歴史を熱く語ってくれるという出会いもあったそうです。工事のプロセスから発信しているからこそ、オープン前からたくさんの期待が集まっているのを感じている、と芹澤さんは話します。宿泊できる場所になると聞いた地域の方の多くが「ぜひ泊まりに行きたい」と口にしてくれるといい、完成を心待ちにする声は、着工前からすでに大きなものになっています。

縁側からみえる奥行きのある箱庭

昔のの技術と「今の快適さ」を融合させる

芹澤さんは、設計から現場管理、オープン後の運営まで一貫して担当しています。通常の古民家リノベーション案件であれば、現地調査、基本設計、実施設計、現場管理と、フェーズごとに担当者が分かれることが多いといいます。「雪宿り」ではこの一連の流れをすべて一人で任されており、かなり異例の任され方だと芹澤さん自身も笑って話します。

現在は「現地調査」と、どんな間取りにするかを決める「基本設計」を同時進行で進めている段階です。今後、基本設計がまとまった段階で各業者へ見積もりを依頼し、費用を精査しながら実施設計へと進んでいく予定です。補助金の兼ね合いもあり、単年度事業としてのデッドラインは2027年2月の竣工。ただし「屋根さえどうにかなれば冬場も中で作業ができる」ことから、できれば雪が降る前のオープンを目指して、見積もりや工程表を詰めているといいます。

リノベーションのこだわりは、ただ綺麗にするだけでなく、古いものの良さを徹底的に活かすこと。

  • 間取りの工夫:奥の増築されたスペースをあえて減築し、蔵と母屋の間に心地よい「外空間」を作ります。キッチン部分は吹き抜けにして、上部に大容量のロフト収納を新設。水回りにはサウナとお風呂を完備します。
  • デザインの遊び心:新潟・十日町で古民家再生を手がけるカール・ベンクスさんのように、北欧テイストのカラフルな色合いを一部に取り入れ、「新しく手を加えた楽しさ」が見える改修にしたいと考えています。
  • 性能へのこだわり(断熱・耐震):壁や床下にしっかり断熱材を仕込み、リビングにはペレットストーブとエアコンを設置。現代の新築住宅と変わらない快適さまで性能を引き上げます。
  • 見える耐震補強:自社物件だからこそ「どこにどんな耐震補強を入れたのか」があえて目に見える工夫を凝らし、リノベーションのショールームとしても機能させたいと考えています。

宿泊は1日1組限定、最大6名までを想定。食事は基本的にまちに出てもらうスタイルを案内しつつ、「出たくない」という方向けに、食材提供やケータリングの用意も検討しているそうです。宿泊者を新庄のまちへと押し出していくことも、「まちの案内所」としての役割の一部だといえます。

Before/After。改修後のイメージを設計と検証を重ねながら詰めていく

個人の古民家プロジェクトとも、地続きで

実は芹澤さんにとって、古民家との向き合いは「雪宿り」だけではありません。ヤマムラに入社する前、山形へ一度移住してきた際に個人で借りた東根の古民家が、今もそのまま残っているのだといいます。当時は自分の手だけで再生に挑もうとしたものの、資金的にも技術的にも一人ではどうにもならず、「働きながら知識と技術を身につけられる場所」を探した先にヤマムラがあった──それが、いまの芹澤さんの原点です。会社の「雪宿り」と、個人の東根の家。二つの古民家に同時に向き合う日々が、彼女の実感のこもった設計に生きています。

まちと育てる古民家再生。次回は7月、フリーマーケットへ

芹澤さんがこのプロジェクトに勝手に決めている裏テーマは、「まちと育てる古民家再生」。建物が完成して終わりではなく、作るプロセスから地域の人と関わり、みんなの愛着を育てていく──。その一環として、片付けのワークショップをすでに何度か開催しています。

7月の「よろず市」(奇数月・第2土曜日開催)には、古民家に眠っていた古い道具たちに、物語のタグを添えてフリーマーケットに出店する予定です。値段を決め、ものをレイアウトするところまでをワークショップとしてセットにできれば、お披露目の練習台になると同時に、この場所を知ってもらうきっかけにもなる。実際、片付けを手伝った地域の学生からは「建築の仕事に少し興味を持った」という声も聞かれたそうです。

工事の過程でも、一般の方が関われる場面を少しずつ作っていく計画です。壁を一緒に塗ったり、庭のブロック塀の修繕にあわせて、町の方々から石積みに使えそうな石を集めさせてもらったり。すでに石積みが得意な友人にも協力を仰いでいるといいます。少しずつ、まちの人たちと一緒にこの建物を育てていく。それが、芹澤さんが「雪宿り」に込めた、もうひとつの設計思想です。

山村プレスでは、「雪宿り」が完成するまでのリアルな裏側を、これからも連載でお届けしていきます。次回もぜひお楽しみに。

大正13年(1924年)建築の古民家。再生後は1日1組限定の宿と、まちに開かれた相談所が同居する拠点になる。

DATA

「雪宿り」|山形県新庄市万場町・大正13年(1924年)築の古民家再生プロジェクト
竣工予定:2027年2月(補助金デッドライン)/雪が降る前のオープンを目標に調整中
用途:店舗スペース(ヤマムラ住宅事業部のサテライトオフィス/まちの案内所・相談所)+宿泊スペース(1日1組・最大6名、運営:ベステイト)
設計・ディレクション:芹澤菜月(株式会社ヤマムラ 住宅事業部)
Instagram:@yukiyadori_1924

写真・文:山村プレス編集部

Sanson Press — Shinjo, Yamagata