山形県新庄市に本社を構え、大断面製材から建築、まちづくりまでを一貫して手がける株式会社ヤマムラ。その中で、多様な働き方を実践しながら、地域の未来を形作る設計を行っているのが企画開発部の柴崎隼さんです。
現在、柴崎さんが日々の業務を行っているのは、新庄の本社ではなく、山形市にある「やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)」。古い小学校の校舎を美しくリノベーションした、クリエイターたちが集まる注目のシェアオフィスです。
東京でのタフな下積み時代から、山形への移住、そして「Q1」という環境がもたらす設計への好影響まで、柴崎さんのこれまでの歩みとこれからの働き方についてじっくりとお話を伺いました。
朝からプレハブにこもり、ひたすら図面を描いた東京での下積み時代
宮城県大崎市で生まれ育った柴崎さんは、東京の大学、そして大学院へと進み、建築の道を志しました。学生時代はアトリエ系の設計事務所でアルバイトなども経験したそうですが、「いわゆるアトリエ事務所の空気感は、少し自分には肌が合わないかもしれない」と感じていたと言います。
そんな大学院の卒業間近、学校の掲示板で見つけたのが、ヤマムラ東京支店の求人募集でした。
「実は、同じ大学の直属の先輩である中村出さんの存在を知っていたこともあって、一度会ってみたい、お話をしてみたいと思ったのがヤマムラに入社した一番最初のきっかけでした」
2011年4月、こうしてヤマムラでのキャリアをスタートさせた柴崎さん。しかし、入社当時のヤマムラは「設計事務所」ではなく、あくまで歴史ある「工事屋さん(施工会社)」でした。そのため、配属された柴崎さんに待っていたのは、一般的な設計士のイメージとは少し異なる、非常に泥臭くも濃密な「現場の日常」だったのです。
「東京にいた頃は、工事担当者の車に朝から一緒に乗せてもらって、工事現場に向かうんです。そして、現場に建てられたプレハブの事務所に一日中こもって、ひたすら図面を描いていました。設計者が描いた図面をベースに、実際に職人さんたちが建物をつくるための、もっと詳細な『施工図』を描くお仕事です。描いては現場へ持っていって職人さんに教えてもらい、またプレハブに戻って修正して……という生活が、東京時代はかなり長かったですね」
華やかな意匠設計だけでなく、建物の収まりや職人とのコミュニケーションといった「現場のリアル」を徹底的に叩き込まれたこの時期。この泥臭い下積みの経験こそが、現在の柴崎さんの強固な設計力のベースとなっています。


命の危険を感じた、大雪の「ホワイトアウト」が転機に
東京支店で数々の経験を積んだ柴崎さんですが、2019年頃、奥様のご実家がある山形市へと生活の拠点を移すことになります。山形での生活が始まった当初は、山形市内の自宅から新庄市にある本社まで、毎日車で通勤を続けていました。
そんな柴崎さんの働き方を大きく変える、文字通りの“転機”が訪れたのは2022年の冬のことでした。
「その日は本当に雪がひどくて、天気が悪いから早めに出なきゃと思って、朝の7時前に山形市の家を出発したんです。当時はまだ高速道路(東北中央自動車道)が村山方面まで繋がっていなかったので、13号線をひたすら新庄へ向かって走るしかありませんでした。そしたら道中、人生で初めて経験するような猛烈な『ホワイトアウト』に巻き込まれてしまって……」
【ホワイトアウトの衝撃】
道路と周りの景色が完全に一体化し、自分がどこを走っているのかすら分からない恐怖。
朝7時前に出発したにもかかわらず、新庄の本社に命からがら辿り着いたのは「お昼の13時」だった。
「これはいくら命があっても足りない。移動のコストやリスクが大きすぎる」と痛感する。

この命がけの通勤劇をきっかけに、柴崎さんは会社へ相談を持ちかけます。たまたまその時期、山形市内に新しくオープンした「Q1」が、テナントだけでなく1席単位から借りられるシェアオフィスを募っているという情報がありました。会社からの快諾を得て、柴崎さんはQ1の中にヤマムラの「山形デスク」を構えることになったのです。
「基本的には、パソコンに向かって黙々と作業をするような時期や、特に移動が危険になる冬場は、このQ1のオフィスに籠もって仕事をしています。もちろん、現場や打ち合わせがあるときは外へ飛び出していきますが、山形市内にこうして集中できる拠点があることで、移動のストレスやリスクを減らし、非常にコスパ良く、密度の高い仕事ができるようになりました」
「Q1」というリノベーション空間がもたらす、心地よい刺激
柴崎さんのお気に入りの場所でもあるQ1のオフィスは、古い建物の風合いを活かしたレトロで落ち着く空間です。そこには、従来の「会社のオフィス」にはない、心地よい刺激が溢れていると言います。
「このシェアオフィスには、映画関係の広告代理店をやられている方、企業のコンサルタント、ふるさと納税関連の会社の方、そして僕と同じように個人で設計事務所を営まれている方など、本当に多様なジャンルのクリエイターが入居しているんです。日常的にベタベタ絡むわけではないですが、ふとした瞬間に雑談をしたり、時には『何か一緒に面白い協業ができないか』とお話をしたりすることもあります」
また、取引先やメーカーとの打ち合わせの面でも、山形市内のQ1という立地は大きなメリットを生んでいます。
「仙台にあるメーカーさんなどから『打ち合わせをしたい』と連絡をいただいた際、僕がここにいると伝えると、『新庄まで行かなくて済んだので、本当に助かりました!』とものすごく喜ばれるんです(笑)。山形市内の取引先へのアクセスも良く、この場所を拠点に選んだのは大正解だったなと感じています」
東京支店での現場主義的な働き方から、山形へのUターン、そしてホワイトアウトという自然の脅威を経てたどり着いた、「Q1」でのクリエイティブな分散型の働き方。
この柔軟な環境と、柴崎さんが培ってきた確かな施工のノウハウ。そのすべてがギュッと結集し、ヤマムラの本拠地である新庄市の、とある大きな公共プロジェクトへと繋がっていくことになります。
(後編へ続く)
